リウマチ寛解後の生活
「Windows of Opportunity=治療機会の窓」が開いている間に適切な治療を受ければ、関節や骨が損なわれずに寛解導入に至る可能性が高くなります。その期間は発症から約2年間で、それまでに症状がなくなれば、発症以前と同じ生活ができるようになります。
とはいえ、リウマチ治療は消化活動のようなものです。治療機会の窓が開いている間に火元に対してリウマトレックスや生物学的製剤、JAK阻害薬で消化活動を行います。火が鎮火すればホースを絞って薬の量を減らしたり、場合によっては消火栓のバルブをしめて治療中止したりすることができます。しかし残り火がまだくすぶっていて、何かのきっかけでまた燃え広がることもあります。その場合はまた消化活動を行わなければなりません。
再熱させないために大切なのは、まずは感染予防です。風邪、インフルエンザ、肺炎のほか、今は新型コロナウイルスもあるため、流行前に早めにワクチン接種を受けるべきです。副作用となりやすい帯状疱疹にも不活化ワクチンがあります。
次に禁煙です。おそらく治療中に指示されるはずですが、寛解したからといって喫煙するのはいけません。炎症を再発させたくなければ禁煙を続けることが大切です。
歯周病や歯肉炎もよくある外因の一つです。気になる症状があれば歯科を受診して治療を進めておきます。また、ワクチンも免疫反応に関わるものなので穏やかな状態に波紋を起こすことはあります。実際に新型コロナウイルスのワクチン接種によってリウマチを発症した、リウマチが悪化したという事例は海外も含めて起きているのは事実です。しかし、まだ現在のエビデンスにおいてはワクチン接種によって重症化・死亡を防ぐことのほうが、ワクチン接種が引き金になって発症・悪化することよりも有効性が高いのです。
こうしたことからも、寛解後の患者が自宅で症状と向き合うには、こわばりや痛み、腫れをこまめにチェックすることが大切です。次のような目安によってセルフチェックをすることができます。
【青信号】 朝、指にこわばりを感じるがそのうちに消えてしまう
→それ以上ひどくならなければ次の受診まで待っていてよい
【黄色信号】 仕事や家事などで無理をしたあとに、関節に痛みや腫れが出た
→次の受診まで待っていてよいが、疲れるようなときは生活を振り返り、できるだけ負荷がかからないようにする
【赤信号】 痛みや腫れがある場所に熱感を伴っている
→炎症の活動性が増しているので速やかに受診する
自分に合った主治医を見つけるには
症状を抑え、寛解を目指していくときにどの病院・クリニックにかかるか迷っているときはまず、急速な進歩を遂げている治療法が常にアップデートされている施設かどうかを見てみます。
リウマチ専門医を標榜していても、古いリウマチ治療では寛解への道は遠くなります。ホームページなどから判断する場合は、医療情報だけではなく、SDMのように患者をサポートする姿勢がその施設から伝わってくるかどうかも、夢や希望を諦めない治療をするのには大切です。医療費の負担もあるので、それも含めて相談しやすそうな施設かどうかも大切です。また、セカンドオピニオンを受けることによってほかの医師の視点を取り入れ、自身の疾患に関して客観的な意見を聞ける機会をつくることも大切です。
もし近くに希望するような施設が見つからない場合は、少し遠くても、ここなら良いと思った施設に行ってみるとよいと思います。今はオンライン診療も進んでいますし、同じ治療目標を共有できる施設を自宅近くで探してもらえるはずです。人生を諦めない治療につなげるためにも、納得できるところを諦めずに探すべきです。
これからのリウマチ治療とは
画期的な治療薬が登場して以降も、さらなる研究が進んでいます。未来になればなるほど効果の高い薬が登場するのは間違いありません。私のクリニックでは治験を行っているので、それは肌で感じています。生物学的製剤やJAK阻害薬で、原因物質を遮断することができましたが、これからの薬は遺伝子に直接働きかける方向に向かっていくことは間違いありません。リウマチを元から倒すための治療です。
もう一つは、患者の負担をいかに減らす治療ができるかというということです。
まずは経済的な負担です。やはり生物学的製剤、JAK阻害薬は薬価が高く、継続して使うには負担がかかります。治療薬選択の際は、無理のない範囲での医療費負担で、いかに効果をあげる薬を選べるかということも大きなポイントです。
ただこの点では、明るい光も見えていて、生物学的製剤やJAK阻害薬の特許が切れてきて、後発品・後続品も出始めています。価格は先行品の60〜65%ほどです。生物学的製剤については「バイオシミラー」という後続品が2022年11月現在、3点出ており、これらも治療薬の選択肢に入っています。JAK阻害薬の後発品も間もなく承認されるはずです。
そして、もう一つの負担というのは、リウマチになったから、もう今までのような人生は送れないかもしれないという気持ちの負担です。これは進化した治療によって寛解に至ることが増え、身体的には以前と比べたら負担は激減しました。でも、気持ちの負担はどうしてもぬぐいきれないという人はまだまだたくさんいます。夢や希望を諦めずに今までのような人生を送る方法はいくらでもあります。今すぐに治療法を見つけることができなくても、医療者と協力してじっくり探していけばいいのです。
下記書籍で詳しく解説しています。
コメント