本記事では漢方ついて、北里大学東洋医学総合研究所の花輪壽彦名誉所長、名誉教授のアドバイスを元に詳しく解説していきます。
万人に合う訳ではありませんのでしっかりと診察することが大切です。
世田谷リウマチ膠原病クリニック新宿本院(旧:新宿南リウマチ膠原病クリニック)では保険診療で花輪先生の診察を受けることができます。
「漢方」とは?
「漢方」は日本で発展した
「漢方」という言葉のそもそもの意味ですが、この名称は日本で行われている「中国系伝統医学」に対してつけられた日本独特の呼び名であり、現在の中国の伝統医学(中医学)を示す言葉ではありません。
中国との交流が盛んになる6世紀ごろから中国の医学も日本に伝来してきました。984年には中国医学の引用を内容とした『医心方』が丹波康頼によって著されました。これが現存最古とされている日本の漢方医学書です。
その後日本では、18世紀になると西洋医学が入ってくるのですが、このときはオランダ医学が主流で、蘭学・蘭方と呼ばれました。そして、その蘭学・蘭方と区別するために、それまで主流であった日本の伝統医学を「漢方」と呼ぶようになったというわけです。そのため、中国医学を基礎に日本において発展したものを「漢方」と呼ぶのであって、中国には「漢方」は存在しません。
19世紀に入ってから漢方は次第に衰退していき、西洋医学中心になっていきました。特に1883年(明治16年)に医師国家試験の内容が西洋医学となったことによって、日本では「医学=西洋医学」となってしまいました。
そのため、ふだん私たちが医者にかかる場合、診断や検査の方法、治療においても基本的には西洋医学の医療を受けているはずです。もちろん、漢方が完全に廃絶してしまったわけではなく、その技術は連綿と伝えられてきており、現在では特に効果が見直されてきている傾向にあります。
1976年(昭和51年)には、多くの漢方製剤(主にエキス剤)に健康保険が適用されるようになり、現在では、日本の医師の約7割が治療に漢方薬を処方しているという状況です。日本での漢方薬の消費量も年々増加しており、中国からの漢方薬の輸出の8割は日本向けになっているほどです。
「漢方医学」と「漢方薬」という言葉がよく使われますが、これらはコンピュータにおけるハードとソフトのようなもので、漢方医学はソフト、漢方薬はハードであると言えるでしょう。
漢方は、漢方医学の考え方をもとに、漢方薬を使って体を治していくというものなのです。
西洋医学と東洋医学の違い
本来、東洋医学と西洋医学は地理的区分による区別なのですが、現在、日本で東洋医学というと、漢方医学と鍼灸医学を指します。
では漢方医学は西洋医学(現代医学)とどう違うのでしょうか。
西洋医学では心と体を分けて考え、体を臓器や皮膚といった“細かい部品”の集合体と考えます。病気になったとき、体のどの“部品”に障害が起こっているか、検査をして原因究明することが重要視されています。
そして、その障害の起こった“部品”を改善したり、取り除こうとするのが治療の基本です。ですから、がんに対する外科治療のように障害のある部位を取り除いたり、細菌に対する抗生物質のように病巣に直接働きかける治療が行われます。診療科も内科、外科、呼吸器科、消化器科、循環器科、泌尿器科などと細分化されています。こうした医学では科学性、客観性が重要視されるので患者の生の声よりも検査結果が重要視されます。体と心とを分けて考えるので、心の症状は心療内科や精神科など専門の医師に任せることが多いのです。
一方、漢方医学では西洋医学のように心と体を分けません。心と体は一体であるとする概念を“心身一如”と表現しています。人の体全体を改善することが、問題のある個所を改善することだと考えます。そのため、一つの器官を重視するのではなく、全体の調和を図ることで部分も改善することを目指してるのです。
つまり、体のバランスを整え、自然治癒力を高めることを基本として治療を行うのです。そのため、「四診」といって「望」(視覚による診察)、「聞」(聴覚、嗅覚による診察)、「問」(患者の訴えを聞く診察)、「切」(触覚による診察)を行い、心を含めた体全体の病態や体質を捉えて「証」(後述)として診断するのです。
漢方は“個の医学”と言われ、個人の体質・特徴を重視します。ですから、西洋医学のように検査結果を重視するのではなく、患者の生の声を大切にします。西洋医学では確立された治療法に従ってある程度、画一的に治療を行おうとしますが、漢方では、同じような症状であっても「オーダーメイド(テーラーメイド)」によって個人それぞれに合った個別の薬を処方するのです。
なお、西洋医学と東洋医学の違いを以下の表にまとめました。
西洋薬と漢方薬の違い
薬の考え方も、西洋医学と漢方医学では違っています。
西洋薬は、一部の例外を除いて、化学構造のわかっているいわゆる化学薬品を用います。天然物を精製させてほぼ純粋な薬物をつくり出しています。天然物も用いてはいますが、成分を抽出して合成しているので、効き目が明確で強く、単一の臓器について一定の薬理作用をもたらします。即効性はありますが、その分、副作用も強いという特徴があります。
一方、漢方医学では、煎じ薬やカプセル、顆粒の漢方薬がありますが、どれも天然の生薬を何種類か組み合わせることでできています。多成分系薬理作用と言いますが、複数の成分が相互作用されて体全体に調和的に働きかけます。漢方薬は古来の膨大な使用経験を参考に用いることが基本ですから、副作用が少ないというのも特徴の一つです。
どんな症状に効果があるの?
西洋医学は、急性の激しい症状や外科手術を必要とするような状態を改善するのには適していますが、「冷え性」といった西洋医学では病気としての概念のないものや、「疲れやすい」「凝り」「倦怠感」など不定愁訴と呼ばれる体の不調には漢方医学が適していると言えます。慢性疾患で長期の治療を必要とする人や、複数の病気のため薬の種類が多くなる患者さんにとっては、漢方医学が特に効果を発揮すると考えられます。
西洋薬は治療から承認まで3〜5年以上かかるのが一般的ですが、漢方薬は2000年以上前から無数の処方がつくられては淘汰され、すぐれた処方だけが残されてきました。約2000年の臨床治験を行ってきたとも言えるでしょう。
単一成分の薬が多い西洋薬に比べて、漢方薬は複合剤であるので成分は非常に多く、相反する成分が一緒に配合されているものさえあります。漢方薬の薬理作用は極めて複雑、多彩で多方面にわたるため、効果を科学的に解明するのは非常に難しいとされています。
漢方薬は使われている生薬によって、「辛い」「甘い」「酸っぱい」といった味と独特のにおいがあります。漢方では、こうした生薬の味やにおいにも何らかの効果があると考えられています。
最初は抵抗があった味やにおいも、慣れてくればおいしい、いいにおいだと感じられるようになることも多いので、服用するときはできるだけ味わってのむようにするといっそう効果的です。特に、においについてはアロマテラピーとしての効果があるものもあり、できるだけ嗅ぐようにするのが望ましいとされています。
「漢方」は日本独自のもの
漢方は中国の医学(中医学)を元にした日本独自の医学であることは前述しました。現在、日本で使われている漢方処方には、『傷寒論』『金匱要略』、宋代の『和剤局方』、明代の『万病回春』など、中国の各時代に書き記された医学書を出典とするものが多くあります。
また、江戸時代の漢方医によってつくられた処方や経験的に使われてきた処方が今でも臨床応用されています。紀州藩の名医・華岡青洲の「十味廃毒湯」「紫雲膏」などが原典に記されています。このように、日本の漢方の原点は中国医学ですが、日本に伝わってからは独自の発展を遂げたのです。
そもそも中医学とは古代中国に起源を持つ中国の伝統医学です。中医学は五臓六腑を中心とする独特の理論によって病気の原因を考え、薬を決める「弁証論治」という方法で治療を行います。中医学で処方される薬は、正式には「中薬」といい、これも日本の漢方薬とは使用される生薬や使用分量が違っているというのが実情です。
そのため漢方薬と中薬には考え方や病気の捉え方、診察の方法などに違いがあります。同じ名前の処方もありますが、その内容や分量、配合比率などは同じとは限りません。ですから中国で買ったり、海外旅行のお土産としてもらったりした「漢方」という名前が付いた商品の中には、漢方医学に基づかないものも多くあり、日本では禁止されている成分が入っていることもあるので注意が必要です。
体調を崩したり、予期せぬ症状などが出たりする可能性もあるので、決して安易に服用しないようにしてください。どうしても使いたいときは、事前に医師や薬剤師に相談するようにしてください。