本記事では漢方ついて、北里大学東洋医学総合研究所の花輪壽彦名誉所長、名誉教授のアドバイスを元に詳しく解説していきます。
万人に合う訳ではありませんのでしっかりと診察することが大切です。
世田谷リウマチ膠原病クリニック新宿本院(旧:新宿南リウマチ膠原病クリニック)では保険診療で花輪先生の診察を受けることができます。
漢方薬について知ろう!
生薬の組み合わせでできている
「証」が定まったら漢方薬が処方されます。このときの漢方薬は生薬が基本です。生薬とは、自然界の動植鉱物のうち、薬効成分をもったものを薬として加工したものを言います。
生薬の8割は草木類で、樹皮、茎、根、葉、果実、花、種子などです。あと2割は、動物の皮、骨、内臓、また貝殻や昆虫などの動物類と、一部の鉱物が占めています。これらを生のままではなく、加熱したり塩水に浸して乾燥させたり、砕いたり、挽いたりして煎じてのむのに適した形状にします。こうした生薬を、通常は二種類以上混合することにより、漢方薬として使用します。
こうして煎じやすくした生薬を組み合わせていくわけですが、合わせ方としては「上薬」を中心にして、「中薬」「下薬」を定められた比率で組み合わせて配合されます。
上薬は、体質強化、養生のために有効な薬で、西洋薬のように即効性や特効薬的な効果はありませんが、副作用がほとんどなく毎日のむことができ、そうすることで全身状態を改善することができます。上薬の例としては、人参、甘草、菊花、朮、五味子などがあります。
中薬は、穏やかに症状に作用し、新陳代謝を盛んにしたり、性を養う(体質改善のような作用)ものです。大量に摂取すれば副作用が出ることもありますが、適量であれば毎日摂取することができます。中薬の例としては、葛根、麻黄、芍薬、防已、黄芩などがあります。
下薬は、症状に強く作用するものの、しばしば副作用も伴うことがあるので、西洋薬によく似たタイプの生薬と言えます。そのため、摂取量や摂取期間に十分な注意が必要です。下薬の例としては、大黄、半夏、黄柏、附子、桔梗などがあります。
これらを決められた比率で組み合わせるわけですが、たとえば甘草・朮(白朮)・人参・乾姜をそれぞれ同量組み合わせると人参湯となります。
この上薬、中薬、下薬に使われる「上・中・下」は、漢方ではランクの上下も表しています。漢方では西洋薬としては認められないような上薬を最もランクの高い薬とし、逆に西洋薬に近い薬を下薬として、格下に位置付けています。
西洋医学では、薬としての薬効がはっきり確かめられないような上薬は薬と健康食品の間に位置するようなものと認識していますが、東洋医学では、薬というものを広く捉えているので、このような格付けがなされているのです。
つまり、上薬の「上」は、「薬のあるべき姿」「理想的な薬」という意味なのです。漢方では副作用が出る可能性が少ないことを重視するので、「上薬」というランク付けをしているのです。そして「上薬」「中薬」「下薬」を組み合わせることにより、漢方薬の個性が生まれ、チームプレーとしての薬効を発揮します。
漢方薬の種類と名前
生薬を元に漢方薬がつくられるわけですが、これを漢方処方と言います。みなさんがよく聞く「葛根湯」や「八味丸」などが漢方処方になります。漢方が難しいものとイメージされている1番の理由は、「葛根湯」や「八味丸」のような漢方薬の名前の難しさから来ているものと思われます。
学会の場でさえ「漢方ではどうしてそんな難しい漢字を使うんですか」などと質問されることがありますが、これはおかしな話で、ドイツ語を学ばない人が「ドイツ語は難しい」というのと同じことだと思います。
漢方薬の名称は、通常、日本名ではなく、中国と同じものが使用されています。たとえば、生姜のように音読みが一般的ですが、なかには紫苑、牽牛子のように独特の呼び方をするものもあります。中国では三世紀初頭以降、優秀な生薬の組み合わせには処方としての「命名」がなされ、それが現在でも使われているのです。
漢方薬は前述したように、複数の生薬をブレンドすることによって、生薬の持つ薬効を際立たせ、逆に副作用が出ないようにしていますが、オーソドックスな薬名は、それぞれの処方のベースとなる主薬と、相性の良い生薬の名前が合わさったネーミングがなされています。たとえば、「人参湯」や「桂枝湯」がそうです。人参湯は人参、桂枝湯は桂枝を主薬としています。
主薬に構成生薬名をそのままつなげたものもあります。たとえば、「厚朴生姜半夏甘草人参湯」というような長い処方名がありますが、厚朴・生姜・半夏・甘草・人参が処方された煎じ薬になります。
また、「六君子湯」は6つの生薬からなっており、「君子のようにおだやかな効果がある」という意味で名付けられました。また、「七物降下湯」は7つの生薬からなっています。「抑肝散」の肝は漢方では肝臓を表す文字ではなく、癇癪の癇を表し、これを抑えるという意味になります。
この主要な生薬の下に、「湯」「散」「丸」「膏」といった薬の状態を示す言葉がプラスされて一つの漢方薬名となっているのです。
「湯」は「湯剤」のように煎じて飲用するタイプ、「散」は「散財」のことで生薬を「薬研」というすり鉢で挽いてパウダー状にしたタイプ、「膏」のように塗ったりする軟膏や湿布タイプ、「散財」をハチミツで丸めて固めた「丸剤」タイプ、手軽に服用できるエキス剤タイプがありますが、現在では煎じ薬とエキス剤がほとんどを占め、これ以外はごくわずかです。
生薬の名前自体を分類すると、次の6つになります。
- 形態からの命名 − 生薬の薬として用いられる部分の色合いや形、使用される部位からつけられたもの。
例:紅花、朱砂、赤芍薬、鬱金、青皮、人参、牛膝 - 味や香りからの命名 − 独特の味を持つことからつけられたもの。
例:甘草、細辛、苦参、五味子、沈香、桂皮、白檀 - 作用からの命名 − 作用からイメージされるものからつけられたもの。
例:益母草、決明子、補中益気湯 - 採取の時期からの命名 − 生薬の成長の様子からつけられたもの。
例:忍冬藤(スイカズラ)、夏枯草(ウツボグサ)、半夏 - 産地による命名 − 生薬が採れる地名にちなんでつけられたもの。
例:呉茱臾、川芎、蜀椒 - その他
例:陳皮、当帰、何首烏
煎じ薬とエキス剤について
こうした生薬を用いた漢方薬の形態には大きく分けて、煎じ薬とエキス剤があり、煎じ薬が全体の7割を占めます。煎じ薬は漢方薬をお湯で煎じて服用します。煎じ薬と言われているもののうち一般的なものには「湯」の字が使われていますが、これを「湯剤」と言います。
「湯剤」は、生薬を煎じてスープ状にしたものを言います。日本の味噌汁がダシの素材や味噌の種類によって風味や味わいが出るように、「湯」も煎じることによってそれぞれの薬効が効果的に抽出され、服用すると吸収が早いというのが特徴です。ほかに、「方」や「飲」という漢方の処方名がついているものがありますが、これも「湯」と同じものと考えて良いでしょう。
体への吸収が良いため他ののみ方に比べて効果的ではありますが、煎じあがるまでに手間がかかるのが欠点です。
「エキス剤」は近年になって普及が進んでいるもので、生薬を煎じた液を濃縮・凍結・乾燥させ(フリーズドライ)、粉末状や顆粒、カプセル剤などにしたものです。煎じ薬とエキス剤ではどちらが服用に適しているかというと、簡便さからはエキス剤ですが、煎じ薬のほうがより高い効果を得られることは間違いないところです。
煎じ薬とエキス剤の違い
煎じ薬とエキス剤の長所短所を比べると、次のようになります。
煎じ薬
長所 − 生薬そのものをお湯で煮出してのむ薬なので、生薬の量を加減したり、他の生薬を加えるなどして、その患者だけの処方をつくることができます。すでにお湯に溶けているので、体内に吸収されるのも早く、即効性が期待できます。また、生薬を煮出す時に出るにおいで、アロマテラピーの効果を得ることができるものもあります。
短所 − 煎じる時間や水の量などが適していないと、漢方本来の効果が得られなかったり、必要以上の成分が溶け出すことがあります。煎じるのにヤカンと火元が必要で、煎じるのに40〜60分と時間がかかります。ただ、今はタイマーで自動的に煎じあがる自動煎じ器が普及しています。
エキス剤
長所 − お湯に溶かす、またはそのまま錠剤、カプセル、顆粒の状態で白湯や水でのむので、煮出す手間がかからず、携帯にも適しており、のむのに場所を選ばない。煎じ方によって、成分の有効性にばらつきが出やすい煎じ薬と違って、製薬会社が安定した品質のものを提供しているので安心です。煎じるための道具を必要とせず、手間もかからず、保存も簡単です。
短所 − エキス剤は常に一定量でパッキングされているので、煎じ薬のように生薬の量を個別に、いわゆる匙加減したりすることができません。
これらの長所短所を踏まえた上で、煎じ薬とエキス剤のどちらを選ぶかを医師と患者が相談して決めるのですが、さらに、患者さんのライフスタイルに合わせることも必要です。お湯を沸かせる環境にいつもいる主婦であれば、煎じ薬のほうがより高い効果を発揮できるため向いていると言えますが、火の取扱いが不安なお年寄りなどにはエキス剤が向いていると言えます。また、仕事や出張で忙しい人も、外出先でも手軽にのめるエキス剤のほうが適していると言えるでしょう。
どちらにせよ、気をつけなければならないのは、漢方薬はあくまでも薬なので、ある一定期間のまなければ効果が発揮されないということです。そのため、一定期間のみ続けるには、剤型がその人のライフスタイルに合っていることが、大切なのです。
現在は、どちらかというとのみやすいエキス剤のほうが主流になりつつあるようですが、煎じ薬、エキス剤のどちらにも対応する医療機関もあれば、どちらか一方だけしか扱っていないところもありますので注意が必要です。事前に医療機関にどちらを扱っているか確認しておくと良いでしょう。北里研究所のような専門機関では、煎じ薬を服用したいけれど自分で煎じられないという人のために、研究所の方で「煎じ代行」をするサービスも行っています。アルミパックに1回分を入れてお渡ししますので、服用するとき電子レンジで温めるだけで簡単に服用できます。