本記事では漢方ついて、北里大学東洋医学総合研究所の花輪壽彦名誉所長、名誉教授のアドバイスを元に詳しく解説していきます。
万人に合う訳ではありませんのでしっかりと診察することが大切です。
世田谷リウマチ膠原病クリニック新宿本院(旧:新宿南リウマチ膠原病クリニック)では保険診療で花輪先生の診察を受けることができます。
漢方を上手に活用しよう
漢方薬を処方してもらうにはどこに行けばいいの?
ここまで読み進めてきて、「そんなにいいものなら私も漢方薬を試してみようかな」と思った方もいらっしゃるでしょう。では漢方を始めてみたいと思ったときにはどうすればいいのでしょうか?
漢方薬を処方してもらうには、大きく分けて二通りのやり方があります。
一つは医療機関で保険診療を行った上で処方してもらう方法。たとえば、「ツムラの21番」という形で投薬してもらうことになります。前述したように、現在すべての医療機関が漢方薬を取り入れているわけではないのですが、7割ぐらいの医療機関が扱っていますから、通常の病院・診療所で漢方薬を処方してもらえます。これを医療用漢方製剤(全148処方)と言います。
もう一つは、漢方薬局に行って「漢方相談」をした上で処方してもらう方法です。「漢方相談」は腹診など本格的な漢方の診察をするわけではなく、薬剤師が患者さん(お客さん)とのカウンター越しの口頭のやり取りだけで処方を決めていきます。これを「オーバー・ザ・カウンター(OTC)」での処方と言います。漢方薬局でのOTCでは生薬による煎じ薬の処方もあれば、エキス剤による漢方処方も行われます。この場合、健康保険は適用されません。
その他、通常のドラッグストアで処方箋なしに買える漢方薬がありますが、これも健康保険が適用されません。こうした漢方薬は医療用に比べて成分の含む量を抑えてあります。質が悪いというわけではなく、厚生労働省の指示のもと安全性を考えてそうしてあるのです。
漢方薬ではありませんが、たとえば胃酸の出過ぎをコントロールする胃腸薬「ガスター」も医療用は成分量が20ミリグラムなのですが、ドラッグストアで取り扱われているものでは10ミリグラムに減らしています。だから「ガスター10」という名称がついているわけです。
ドラッグストアなどで購入できる漢方薬は一般用漢方製剤と言います。一般用漢方製剤は厚生労働省がこれまで210の処方を公認していましたが、2005年度から新たに83の処方が加えられました。
ここで「じゃあ、どんなときに病院に行って、どんなときに漢方薬局に行けばいいの?」という疑問が当然湧き起こってくると思います。
基本的には、病気の予防をしたい、あるいは体調を整えたいというときは漢方薬局で相談し、症状がつらければ病院を訪れるという言い方もできます。しかし、患者さん本人は重病と思っていなくても医師の管理の下で治療されるべき状態であることもあります。
あえて言うとすれば次のように言えます。初めて漢方薬をのもうという方で、自分のちょっとした体調不良とか病気予防のためにのむ場合は、近くの漢方薬局か漢方に詳しい薬局に行くと良いでしょう。会社の健康診断などで医療機関にかかることをすすめられている方の場合は、必ず医療機関を受診し、漢方薬を処方してもらってください。
病院では何と言えばいい?
あなたが現代医学で西洋薬を処方されている場合でも、「漢方薬を処方してください」と医師に言ってなんらかまいません。昔は「漢方薬?だったら他の病院に行って」と言われることもあったようで、確かに言いにくい面はあったと思います。しかし、今の医師は驚きません。
というのも、以前の大学の医学教育では漢方は選択科目だったのですが、2002年度から必修科目になったからです。ですから、若手の医師は漢方薬を通常の医薬品として認識していますから、「漢方薬を処方して」と言ったところで驚かれるということはまずないでしょう。
ただ、医師の判断で、たとえば「こんなに血圧が高いときは、まず西洋薬で血圧を下げましょう」などと漢方処方を断られることがありますが、医師がそう判断するなら無理に漢方にこだわらず、最善の処置をしてもらうようにしましょう。そういう場合以外は漢方薬の処方を断られることはないはずです。
今、医学界全体として「患者さんのための統合医療」が言われるようになってきています。東とか西、古いとか新しいではなく、患者さんにとって最もいい医療を模索していこうというのが世界中の潮流ですから、もはや漢方は医療になくてはならないものになったということです。
漢方医を上手に受診するには?
西洋医学では、まず問診、触診等をして、見当をつけてから各種の検査をして病名が決定されたのちに治療ということになりますが、漢方では西洋医学の検査で出た数値を医師に言っても適切な漢方薬を処方してもらうことはできません。
ですから、自覚症状をありのまま正直に、要領よく話すことが最も大切です。あとは何も準備はいりませんが、あえて言えば、腹診をするので脱ぎ着しやすい衣服で受診することです。
また、西洋医学で処方された薬を服用している場合は、必ず受診時に申告するようにしてください。
西洋薬と一緒にのんでいいの?
西洋薬と漢方薬の併用は医療の現場でもよく行われており、ほとんどの場合は特に問題ありません。そればかりか、併用することでお互いの効能が補完され、より良い改善をみることができたり、副作用が軽減されたりするなどの利点がある場合もあります。特にアレルギーや皮膚病に用いられるステロイド(副腎皮質ホルモン)は柴胡剤(小柴胡湯、柴朴湯など)と併用すると、吐き気、嘔吐、倦怠感といったステロイド特有の副作用を弱めることができ、さらにステロイドの効能も高めるとされています。
しかし、西洋薬と漢方薬の併用には気をつけなければならない点もあります。抗炎症剤と瀉下効果(下剤作用)のある漢方薬の併用は、漢方薬の効果を消失してしまう可能性があるのです。抗生物質も腸内細菌叢(さまざまな細菌が腸内で繁茂した状態)を変化させるので、漢方薬の薬効に影響する可能性があると言われています。
また、一部の利尿剤と甘草、一部の下剤と大黄も相性が良くないとされています。狭心症などに用いられるβ遮断薬は、体の本来の機能を抑制することで病気の進行を遅らせようとするものなので、体本来の機能を亢進させようとする麻黄や附子とは正反対になりますから薬効が相殺されてしまう可能性があり、やはり併用には向いていません。
このように西洋薬と漢方薬の併用にはメリットもあれば、反対にデメリットもありますから、西洋薬を処方してもらっている医師と漢方薬を処方してもらっている医師が違う場合は、どちらの医師にも服用している薬を伝えておくことが大切です。
また、一人の医師から「証」に従って複数の漢方処方が行われる場合があります。この場合は指示通り服用してください。しかし、眼科と内科といったように複数の科を受診し、それぞれの漢方薬を処方されたときは、同じ漢方だからといって勝手にすべてを服用するのは良くありません。生薬の効果が重なって作用が強くなりすぎることが考えられます。
この場合も必ず双方の医師にどんな処方をされているかを伝えるか、一人の医師に総合的に診てもらうようにするなどして、のみ方などを指示してもらうようにしてください。
胃薬、頭痛薬、風邪薬とののみ合わせやサプリメントについて
処方箋のいらない市販薬とののみ合わせについても一部注意が必要な場合があります。
まず胃薬ですが、大方の薬が漢方薬の成分を多く含んでいるくらいですからほとんどの場合は問題ありません。しかし、酸をあまり出せないPPI(プロトンポンプ阻害剤)という抗潰瘍薬がありますが、そうした薬と漢方薬を一緒にのむと胃酸が薄まっているためにアルカロイドの吸収が強まるという作用が出てきます。
頭痛薬と漢方薬とは相互作用がないので、時間をずらしてのめば問題はありません。
いちばん問題があるのは、風邪薬の中に含まれている解熱作用のある成分です。熱に対する考え方は西洋と漢方でまったく違っています。風邪をひいて熱が出ると西洋医学では病気であるとしますが、漢方では体を治すための一種の生体反応だと見なします。ですから、漢方では無理やり熱を下げるということはしないのです。そのため、いわゆる風邪薬と漢方薬を一緒にのんでしまうと治りが遅くなることが考えられます。
たとえば、漢方薬の「葛根湯」をのむと熱は一時的には上がりますが、その後、ウイルスの増殖を抑える力が強くなり治りが早くなります。これを西洋薬も一緒にのんでしまうと、熱を下げようとするので治りが遅くなってしまうのです。特に子どもの風邪の場合は、親がすぐに解熱剤を与えてしまいがちですが、実は風邪の初期には熱をすぐに下げさせないほうが良い場合が多いのです。漢方では「こうなったら清熱剤(解熱作用の漢方薬)を出す」というきめ細かい処方ができますから、熱が一時的に上がっても漢方薬の服用を続ければいいのです。一般的に、風邪の初期には漢方薬が適していると言って良いと思います。
しかし、まず漢方薬をのんで治せればそれでいいけれども、漢方薬をのんでも39度の熱が下がらないというのにそのまま漢方を続けるのは問題です。この場合は風邪以外の病気も考えられますので、すみやかに医師の診察を受けて下さい。
また、近年急速に普及したサプリメントは、ビタミン剤のようなものです。栄養補助食品という名の通り、あくまでも食品であるので、薬として位置づけられている漢方薬とは違うものと考えてください。サプリメントはあくまでも食品ですから、のんで病気を治すものではありません。病気のときでなくても大いにのんで良いのが漢方薬ですから、サプリメントと同じように漢方薬を捉える人がいますが、漢方薬はあくまでも薬なのです。健康維持のために適切な量を摂る分にはまったく問題はありませんが、摂りすぎには注意しましょう。サプリメントの中には生薬から抽出したものもありますので、併用はおすすめできません。
漢方薬と民間薬は何が違うの?
ハーブやアロエ、ドクダミなど、健康によいとされているものの、薬をして認定されていない植物や成分がたくさんあります。これらの民間薬と呼ばれるものの多くは、昔から高価な薬の代替品として使用されてきた経緯があります。
しかし、漢方薬と民間薬には大きな違いがあります。その一つは、漢方薬は数種類の生薬を組み合わせて用いられますが、民間薬は一つの動植物からできているということです。
また、民間薬は、通常は医師からの診断を受けないまま症状に対して用いられるものであり、安価で、1種類から簡単に使うことができます。昔から民間に伝承されていた薬草の類がそうです。漢方薬の場合は、原則・基準に従って配合され、用量も規定されていますが、民間薬はどのくらいの量を、どのように、どれくらいの期間、服用すればいいのかが曖昧で、その点においては地域差もかなりあります。体系化されていないので、統一見解がないのです。
しかも民間薬は、薬という言葉がついてはいても、医学界で認められた薬という意味ではないので健康保険は適用されません。漢方薬は医学界で認められた薬であり、そのため健康保険も適用されるということなのです。
民間薬と漢方薬の併用もおすすめできません。たとえばハトムギは民間薬ですが、薏苡仁という生薬として漢方薬で使われます。黄柏も「お百草」など民間薬として使われますが、漢方薬の素材でもあります。これらは相互作用する可能性があるのでやはり併用はお勧めできません。
アレルギー体質でものめる?
アレルギーとは、体に侵入した成分(物質)を異物と見なし、体外へ排除しようとするときなどに起こる体の過剰な免疫反応のことを言います。アレルギーには食物アレルギーや花粉症、鼻炎などがあります。
アレルギー体質の方にも漢方は有効です。漢方ではまず漢方薬でアレルギー体質を改善することを目指します。喘息や鼻アレルギー、アトピー性皮膚炎などに対しその症状を緩和する「症状治療」とアレルギー体質そのものを根本的に治す「体質治療」の両面から治療します。体質を変える持ち駒があるところに漢方の大きな特長があります。体質改善は早ければ早いほど有効です。経母乳投与といって子どもの乳児期に母親に漢方薬をのんでもらい、母乳を通して子どものアレルギーを治すことも古くから行われています。