リウマチの治療薬を知る
現在、日本リウマチ学会では治療方針や治療に使用する薬の選択方法については図表20のような3段階のフェーズに分けたガイドラインに沿って行うことを推奨しています。
リウマチ治療のフェーズ I 抗リウマチ薬
・リウマトレックス
リウマチと診断されたらまず、抗リウマチ薬であるリウマトレックスを第一選択薬として使います。最も基本となる薬でもあることから、「アンカードラッグ」という言い方をすることもあります。施設によっては元の薬剤名メトトレキサート、略してMTXと呼んでいる場合もあります。もともとは抗がん剤であるため、そのことを知った患者は内服するのを怖がりますが、リウマチにはがんに投与する量の50〜100分の1の用量で使うだけで効果があるので、安心して内服できます。
リウマトレックスは、敵であるサイトカイン物質を直接的に攻撃するわけではありません。細胞が増殖するときに必要な葉酸の働きを抑えることで、発症時にどんどん増えている滑膜細胞の活動も抑え、結果的にIL-6などのサイトカイン物質が発生しないようにする薬です。
私たちリウマチ専門医が最も使用している薬ですし、最近では費用も安くなって保険の3割負担でも月に2000円程度です。錠剤の服用ですから、患者にも手軽なうえ、量の増減も容易です。使用開始から1カ月のうちには治療効果も表れるため、継続するか別の薬にするかの方針も立てやすいのです。服用期間が長くなりやすいリウマチ治療では、使い続けていくうちに効果がなくなっていくことがいちばん心配されますが、リウマトレックスは比較的効果が長く続きます。
最近ではメトジェクトというリウマトレックスの注射薬も登場しました。口内炎や吐き気などの反応が出てリウマトレックスの服用を諦めていたり我慢して服用していたりする人も、メトジェクトに変更することで効果を得ることが期待できます。
リウマトレックスには単剤の効果以外に生物学的製剤やJAK阻害薬の効果を引き出したり併用したりすることで予想以上の効果が出ることもあり、リウマチ治療にはなくてはならない薬です。
とはいえ、副作用もないわけではありません。そもそも葉酸の働きを抑えるわけですから、それに伴う貧血、口内炎、食欲不振、肝機能障害などが現れる可能性があります。そのため腎臓や肝臓に持病がある人には投与に注意が必要です。適量の葉酸を補充するためにフォリアミン錠が一緒に処方されます。重い副作用には、間質性肺炎や骨髄抑制があります。これらの症状が見られたときは、リウマトレックスは休薬し、病状に応じて入院して治療を行います。
また、リウマトレックスには胎児の催奇形性に影響する場合があるため、注意が必要です。妊娠を考えている場合は、1カ月前には服用を中止します。産後に授乳を行う間も、乳児の体の発育に影響してしまうため使えません。
リウマトレックスだけを使って治療を行った場合のデータで見ると、これによって寛解に至ったのが約30%、活動性が低くなったのを含めると約50%でした。思うように効いていない症例は、使用開始のときにすでに活動性が中等度以上と高かった人たちです。このデータからも、いかに早く診断をつけて治療に入ることができるかが大切だと分かります。
リウマトレックスの効果があまり上がらない場合は、図表20の薬選択の流れにもあるように、リウマトレックスに加えて別の抗リウマチ薬を使うことを検討します。選択する薬は表の通りです。効果だけでなく、副作用の出方など多角的な角度から医師などの医療チームと患者とで相談しながら決めていきます。
・その他の抗リウマチ薬
【ケアラム(イグラチモド)】
国産の薬剤で、免疫を調整して炎症や腫れを抑えて関節破壊を防ぐ働きをします。リウマトレックスと併用することで効果があがることが証明されていますがケアラムだけでも効果はあるので、リウマトレックスが内服できないとき代わりに投与されることもあります。効果発現まで3〜4時間かかります。脳梗塞や心筋梗塞を発症した患者が血管内に血栓ができるのを防ぐワーファリン(ワルファリン)とは一緒に処方できないので、私のクリニックの場合は処方する際に「血液をサラサラにする薬を内服していませんか」と確認します。
【アザルフィジン(サラゾスルファピリジン)】
リウマトレックスを使えない場合に用います。もともとは潰瘍性大腸炎の薬として使われていたもので、関節破壊を抑制する働きがあります。服用から1、2カ月で効果が表れます。副作用では薬疹が比較的多いので、内服を開始して皮疹や紅斑が出たらすぐに中止します。肝障害にも注意が必要ですが、腎臓への影響は少ない薬です。
【リマチル(ブシラミン)】
国産の薬で、血液中のリウマトイド因子を分解する働きが、炎症を抑えます。早ければ1カ月、遅くとも3カ月程度で効果が表れてきます。副作用としてはタンパク尿やネフローゼ症候群などの腎臓機能障害に注意が必要で、そのほかには薬疹、味覚異常、食欲低下、間質性肺炎などがあります。
【プログラフ(タクロリムス)】
国産の免疫抑制剤です。筑波山の土壌にいた放線菌から発見され、開発されたもので、抗リウマチ薬としても使われるようになりました。T細胞の増殖を阻み、サイトカインの分泌を抑える働きをします。単剤で投与される、または他の抗リウマチ薬と併用されることが多い薬ですが、ほかに飲んでいる薬があるときは飲み合わせに注意が必要で、服用期間にグレープフルーツやはっさくなどをとると(果実でもジュースでも)、副作用が出やすくなります。主な副作用は腎機能障害、頭痛、高血糖、高血圧などです。食後に内服することによって、吐き気などの胃腸障害を予防します。
【ブレディニン(ミゾリビン)】
これも国産の免疫抑制剤で、八丈島の土壌にいた糸状菌から発見され、開発されたものです。腎機能に与える影響が少ないため、腎機能障害があってリウマトレックスが使えない人にも使えます。単体で使う場合はリウマトレックスより効果は弱いのですが、リウマトレックスと併用することで効果が高まります。副作用は血液障害や高尿酸血症などがありますが、基本的には安全な薬剤として位置づけられています。
【シオゾール(金チオリンゴ酸ナトリウム)】
金の有機化合物からつくられた「金製剤」といわれるもので、古くからある抗リウマチ薬です。ほかの薬が使えない場合に選択肢として考えるケースもありますが、注射薬であること、そしてほかに有効な薬剤が登場した今では次第に使われなくなりました。副作用としては薬疹、口内炎、腎機能障害などが見られます。
【アラバ(レフルノミド)】
海外ではリウマトレックスと同等かそれ以上の効果があるとされている薬ですが、日本では海外で報告のなかった間質性肺炎を合併する報告があるため、現在ではほぼ使用されなくなりました。副作用はほかに下痢、高血圧、吐き気、脱毛などがあります。体外に排出されるまでに時間がかかるため、副作用が見られた時には、できるだけ早く体外に排出する薬を投与して副作用の回復に努めます。
リウマチ治療のフェーズII リウマトレックス+生物学的製剤またはJAK阻害薬
フェーズIでなかなか効果が出ず治療目標が達成できないときには、フェーズIIに進みます。予後不良因子というしっかり治療しないと関節が壊れてしまう要素をもっている患者に対し、リウマトレックスを基本として生物学的製剤またはJAK阻害薬を使います。予後不良因子をもたない場合には、複数の抗リウマチ薬を組み合わせる方法で治療することもあります。
・生物学的製剤(Bio)
最初に日本で生物学的製剤が認可されたのは2003年のことでした。この薬の登場はリウマチ治療の世界ではかなりセンセーショナルな出来事だったのです。
「長らく寝たきりだった人が投与してすぐに歩くことができるようになった」というような話が次々と聞こえてきたからです。私自身、患者に使ってみたところ「帰り道でもう良くなっていた」とびっくりする報告を受けたのも一度や二度ではありません。
関節・骨破壊を止める働きがあるとは分かっていましたが、すでに壊れていた関節・骨も修復できるのですから、医療関係者もその効果には改めて驚かされたものです。リウマチ治療にさらに大きな光が射してきたという思いを強くしました。
もちろん関節・骨破壊を起こしている患者全員がこのように修復するわけではありません。それでも最近発症して新しい治療の恩恵を受けられた人ばかりでなく、リウマチの進行した患者にも夢のもてる出来事でした。
生物学的製剤は免疫異常が起こったときに分泌されるIL-6やTNF-αなどのサイトカインを目がけて働きかけますが、その後使われるようになった生物学的製剤のなかにはT細胞という免疫細胞の働きを抑えることでサイトカインが分泌できないようにする薬も登場しました。
これほど効果のある薬なら、できるだけ早く使いたくなりますが、高価なことがネックでもあります。一部例外はありますが、日本リウマチ学会では、まずリウマトレックスを使ったうえで、それでも効果がなかったときに使うようにガイドラインを定めました。
生物学的製剤は点滴や皮下注射で行いますが、病院の指導のもとに自己注射が可能なものもあります。自己注射といっても病院で行うような注射を家で行うわけではなく、1回分の薬剤が入っている容器のキャップを取り、本体を押し当てるだけで自動的に針が皮膚に刺さり、薬剤が注入できるものです。注射針を直接目にせずに、薬剤が入っていくところは目で見て分かります。手にこわばりがあっても使いやすい設計になっていて安心して自己注射が行えます。冷蔵庫で保管し、使用の1時間前に出して室温に戻すことで注射時の痛みが軽減します。おなかや太もも、上腕部に注射します。
現在、日本で使える生物学的製剤は次の9種類で、これらは骨破壊の抑制と骨修復を可能にしています。いずれも免疫の働きを抑える薬なので、肺炎や結核といった感染症にかかるリスクが高まることに注意して使用する必要があります。
レミケード(インフリキシマブ)点滴
2003年に承認された日本初の生物学的製剤です。TNF-αの産生を抑え、関節破壊を抑制する効果があります。それまでは抗リウマチ薬が治療の中心でしたが、この薬の登場によって寛解率も高くなりました。症状が重い場合の標準治療薬となっています。TNF阻害薬ではこの薬だけが点滴で行うもので、効果は極めて早く表れ、数日で実感できることもあります。効果の表れ方によって薬の量を増減したり、間隔を調整したりします。この薬を使用する場合は、リウマトレックスと併用します。レミケードを使用すると薬物に対する抗体ができてしまい効果が弱まるため、それを防ぐのにリウマトレックスを併用しておく必要があるのです。早期に使用することが望まれますが、リウマチ歴が長く関節破壊が進んだ人でも病気の活動性を下げたり、寛解に至ったりするケースや生物学的製剤を卒業できる患者もいます。副作用としては感染症、特に結核の発症が心配されていましたが、現在は予防策を講じることができています。
エンブレル(エタネルセプト)皮下注射
アメリカで開発され、日本では2005年に承認されました。レミケードと似ていて、TNF-αの働きを阻害することで、免疫異常を抑え、炎症と関節破壊を抑制する効果があります。ヒト由来のタンパク質だけをもとにつくられたものなのでアレルギーも起きにくく、リウマトレックスの併用が必須ではないのですが、併用すると効果が高いことが分かっています。リウマトレックスとの併用で軟骨や骨が一部再生されたという報告もあります。投与間隔は週に1、2回と短いのですがそれ以上に投与間隔を延長できる患者がいます。効果が出るのが早く、効果が長続きし、半減期が短いため副作用が出た場合はすぐに対処できるということです。持病があったり高齢だったりと慎重な投与が必要な場合に使いやすい薬といえます。また、実際の臨床では妊娠を考えている人の選択肢となる薬でもあります。自己注射も可能です。
アクテムラ(トシリズマブ)皮下注射・点滴
IT-6の働きを阻害する薬で、唯一国産の生物学的製剤として2008年に承認されました。アクテムラも免疫異常を改善し、関節・骨破壊の進行を抑えます。点滴と注射があり、自己注射も可能です。リウマトレックスと併用しなくても単剤で高い効果があり、リウマトレックスを使えない人にも選択される薬です。寛解に至る率も高く、アクテムラを卒業する患者もいます。また、小児のリウマチ治療にも使えます。
点滴では体重によって使用量が異なりますが、標準体重の場合は生物学的製剤のなかでは最も安価で、経済的にも使いやすいといえます。副作用としては感染症のほか脂質異常症などがあります。現在、私のクリニックではアクテムラバイオシミラーの治療を実施しています。数年後にはさらに安価になることが期待される薬です。
ヒュミラ(アダリムマブ)皮下注射
TNF-αの働きを阻害する薬で、日本では2008年に承認されました。これも完全にヒト由来のタンパク質のみからできています。レミケードやエンブレル同様の効果が確認されています。多くの生物学的製剤は抗リウマチ薬で効果がなかった場合に使うことになっていますが、急激に関節・骨破壊が進みそうだと予想される人には、発症初期から使うことのできる生物学的製剤です。リウマトレックスとの併用が必須ではありませんが、併用した方が効果と継続率が高いという報告があります。2週間に1度の皮下注射で自己注射もできます。副作用は感染症のほか、かゆみを伴うことがあります。適切に使うことにより、ヒュミラを卒業できる患者もいます。
シンポニー(ゴリムマブ)皮下注射
TNF-αの働きを阻害する薬で、日本では2011年に承認されました。これも完全にヒト由来のタンパク質からつくられているため抗体ができにくい薬ですが、リウマトレックスとの併用で効果が高まるため、併用は推奨されています。リウマトレックスが使えない場合は、単独使用もできます。4週間に1度の投与間隔でよく、状態によっては投与量を倍量にすることも認められています。実際の外来では、まず4週間ごとの投与を行い、効果があると投与間隔を5、6週間ごとに延長することもあります。1回の注射の薬液量が少ないため、注射のときの痛みが少ないといわれています。また、通院せずとも自宅で自己注射によって投与することも可能です。
シムジア(セルトリズマブペゴル)皮下注射
2012年に国内承認された薬です。TNF阻害薬ではありますが、ほかの生物学的製剤と構造が少し異なり、アレルギー反応を起こりにくくした薬です。この薬は分子構造から胎盤を通過しにくいとも考えられ、エンブレルとともに妊娠を考えている人や授乳をしたい人でも選択することのできる薬です。シムジアは添付文書(使用上の注意や品目仕様といった、医薬品などの重要事項を記載した書面)でも妊娠・授乳が可能と記載されているので、私のクリニックでは妊娠・出産を考えている患者のほとんどがこの治療を選択し、元気な赤ちゃんが産まれています。
オレンシア(アバタセプト)皮下注射・点滴
サイトカインの上位に位置するT細胞が過剰な免疫反応を起こさないように制御する薬です。それによってサイトカインであるTNF-αやIL-6が過剰に分泌することを抑えます。使用した場合の効果は高いのですが、サイトカインを直接叩くわけではないので効果が表れるまでに1カ月程度かかります。しかし、リウマトレックスと併用することで即効性も期待できます。点滴と皮下注射が選択できるので、4週間ごとに外来で投与することもあれば、毎週自宅で投与する患者もいます。いずれにしても寛解を維持できれば投与間隔を延長することが可能です。副作用として起こる感染症の頻度が低く、高齢者などの感染症リスクの高い人や間質性肺炎を合併している人でも安心して使用できる薬剤です。
ケブザラ(サリルマブ)皮下注射
IL-6の作用を抑制する薬で、日本では2017年に承認されました。自己注射も可能です。リウマトレックスなどの抗リウマチ薬で効果が見られないときに選択します。アクテムラと同様に採血検査ではCRPの異常が確認しづらくなるので、感染症への注意が必要です。アクテムラと同様にIL-6の働きを抑えますが同等かそれ以上の効果があることが期待されています。
ナノゾラ(オゾラリズマブ)皮下注射
2022年9月に国内承認され、現状ではいちばん新しく登場したTNF阻害薬です。ほかの生物学的製剤と構造が若干異なり、即効性と効果の持続性が期待される薬剤です。リウマトレックスと併用する方が効果は高いですが、ナノゾラ単独でも高い効果を発揮できます。私のクリニックで治療を行った患者の結果も良好でした。
・JAK阻害薬(JAK)
生物学的製剤は細胞の外で、直接サイトカインを抑える薬でした。それに対してJAK阻害薬は、細胞内でのサイトカインの悪さを阻害する薬です。JAKとはヤヌスキナーゼという酵素のことです。細胞の外にある情報を細胞内に伝える役割をする酵素は〇〇キナーゼと呼ばれますが、そのうちの一つです。サイトカインが直接細胞内に潜り込むわけではなく、細胞の表面にあるサイトカイン受容体と結合してもっと炎症を起こせという情報を細胞内の核に伝達するのですが、伝達を支えるJAKを阻害することで、伝達をさせないようにしています。生物学的製剤が特定のサイトカインをターゲットにしているのに対し、JAK阻害薬はターゲットを定めてはいないため、生物学的製剤でターゲットにしていなかったサイトカインにも使えます。即効性があり、効いてくる感覚がすぐに患者自身にもよく分かる薬です。
生物学的製剤が点滴または皮下注射であるのに対し、こちらは内服薬なので患者にとっては手軽に使いやすい薬です。とはいえ、これも薬価の高い薬であるため、まずはリウマトレックスを第一選択薬として使い、さらにリウマトレックスと生物学的製剤の併用を行ったあとの選択肢となることが多いです。生物学的製剤で効果があがらなかった人でも、JAK阻害薬に切り替えることで効果が見られる患者が多数います。副作用としては帯状疱疹が多く見られるので、使用の際には帯状疱疹のワクチン接種を勧められることもあります。また、がんに罹患した患者やそのリスクがある患者、50歳以上で心血管疾患をもつ患者への投薬は注意が必要ですが、有効性は非常に高い薬剤です。肝機能障害や帯状疱疹などのリスクもあるので、万が一そうした副作用が現れたときでもすぐに対応可能な、経験豊富なリウマチ専門医のもとで治療を行うことが望ましいと、日本リウマチ学会のガイドラインにも書かれています。現在日本で使えるJAK阻害薬は以下の5種類です。
ゼルヤンツ(トファシチニブ)
日本初のJAK阻害薬で2013年に発売されました。最初に開発されたJAK阻害薬なので効果を確認した多くのデータがあります。5mgを1日に2回内服する半減期の短い薬で、副作用が出た際にはすぐに服用を中止することで速やかに体内から薬の影響が失われていきます。リウマトレックスと併用することもあれば、単体で使うこともあります。肝機能の悪い患者に投与する際には注意が必要です。
オルミエント(バリシチニブ)
2017年にJAK阻害薬で2番目に発売された薬です。2mgあるいは4mgを1日に1回内服します。効果が出てきたら通常の量の半量に減量することも可能です。この薬剤はリウマトレックス以外の免疫抑制剤との併用が可能なので併用薬の治療バリエーションが多くなります。治療の効果は高く、副作用とのバランスのとれた良い薬剤です。腎臓が悪い患者に投与するときは服薬の量に注意が必要です。
スマイラフ(ペフィシチニブ)
2019年に発売されたJAK阻害薬で3番目の薬です。この薬剤もリウマトレックスなどの抗リウマチ薬を投与しても、さらに生物学的製剤を使用しても症状が改善しない場合に使われます。1日に100mgあるいは150mgを1回服用します。この薬剤もリウマトレックス以外の免疫抑制剤との併用が可能なので併用薬の治療バリエーションが多くなります。この薬は肝臓で代謝されるため腎臓が悪くても服用することができます。
リンヴォック(ウパダシチニブ)
2020年に発売された薬です。15mgまたは7.5mgの錠剤を1日1回内服します。リンヴォック単剤で使ってもリウマトレックス+リンヴォックを併用して使っても症状が改善した例がたくさんあります。効果があれば半量に減量もします。JAK阻害薬に多く見られる副作用ですが、この薬剤も帯状疱疹になりやすいので服用中は注意しておきます。
ジセレカ(フィルゴチニブ)
2020年に発売された薬で200mgまたは100mgの錠剤を1日1回服用します。リウマトレックスなどでなかなか症状が改善しない、活動性が高い患者にも高い効果を期待できます。潰瘍性大腸炎の治療にも使われています。JAK阻害薬のなかでは帯状疱疹の副作用が少ない安全な薬です。リウマトレックスとジセレカの併用で骨破壊をしっかりと抑制します。
リウマチ治療のフェーズⅢ 別の薬剤への変更
フェーズⅡで生物学的製剤またはJAK阻害薬を使っても効果が不十分だった場合は、他の生物学的製剤またはJAK阻害薬への変更を検討します。ガイドラインでは生物学的製剤のTNFに対する阻害薬が効果不十分だった場合は、非TNF阻害薬を推奨していますが、それまで使用した薬剤を変更する場合が多くあります。効果と副作用を見ながら患者に合った組み合わせを探っていくことになります。
・短期間で治療効果が表れるようになった
現在、治療に使っている薬は短期間で治療の効果が表れます。早ければ投与当日に、遅くとも3カ月目には効果を確認することができます。治療機会の窓が開いている発症から2年間のうちにできるだけ効果的な治療を行うことが大切ですから、できるだけその人のリウマチに効果がある薬を投与すべきです。妊娠・出産などの人生の希望、それまでの副作用の出方、もちろん薬価まで含めて医療者と患者はよく話し合いながら、速やかに治療薬の選択を進めていきます。
・ステロイド剤は不要となった
薬は使いたくないという人が嫌がっている薬の筆頭格がステロイドです。炎症を抑えるには有効ですが感染症、骨粗鬆症、糖尿病、脂質異常などのリスクはあります。そもそも、ステロイドで痛みや炎症を抑える治療は時代遅れとなっています。
日本リウマチ学会による最新の治療ガイドライン(2020年)では、ステロイド剤は補助的治療と位置づけられました。使用するとしても「早期の患者でごく少量短期間の使用にとどめ」とあります。もはやステロイドはリウマチ治療の主流ではないと、学会も認めているのです。
学会でも想定しているのは、抗リウマチ薬や生物学的製剤の効果が表れるまで、または妊娠中などで薬の使用が限定される時期などと限定的な使用です。その目的でもできるだけ非ステロイド性の抗炎症剤を優先しています。リウマチ歴の長い人はリウマチの症状よりもステロイドの長期使用による副作用に苦しんできた経緯があります。
画期的な新薬のおかげで、すでにそうした苦しみからは解放されました。リウマチ治療といえばステロイド投与だった暗黒の時代は完全に去り、新しい治療の時代が本格的に到来したといえます。
・リハビリの頻度は少なくなったが大切な治療
以前の炎症や痛みを取り除くだけの治療では、関節や骨の破壊は止められず、徐々に進行していました。進行は避けられないものとして、少しでも進行を遅らせるために、またすでに動かしにくくなった関節の可動域を少しでも広げられるようにと、リハビリテーションが行われていました。薬での治療に効果がなかった分、その占める役割は大きいものでした。
しかし、発症当初から寛解を目指した治療が行われるようになった今、リハビリの役割は少なくなってきました。リウマチ治療=リハビリではなくなりましたが、治療中も関節を無理のない範囲で動かすことは大切です。関節の可動範囲が制限されていたり、歩行に違和感や障害を感じていたりする場合には、リウマチに詳しい日本リウマチ財団登録理学療法士(PT)や作業療法士(OT)のもとで指導を受け、リハビリや装具を作成することで改善を目指します。健やかなよい姿勢を保ち、日常生活を高い質で送るためにはリハビリが有効です。
新薬登場以前の患者には
新しい治療薬、特に生物学的製剤やJAK阻害薬を使用することによって、一度破壊に進んだ関節や骨も修復されることがあります。日進月歩で治療薬の開発が進んでいる今日は、治療を続けている間にさらなる新薬が登場することも考えられます。
また、現在は人工関節もとても優れたものとなりました。以前は人工関節というと、膝や股関節といった大きな関節が主でしたが、現在では指先の小さな人工関節もあります。置換手術のための傷口や周辺の筋肉や腱などへの影響もごく小さくて済むようになっています。人工関節の耐用年数も長くなり、手術のハードルは低くなっているため、以前は高齢患者に置換手術はあまり行っていませんでしたが、最近では積極的に行われるようになりました。長く不便な生活を強いられていたという人も主治医と相談してみたり、周囲の家族から情報を提案してあげたりしてもよいと思います。