不治の病ではなく寛解を目指せる病気となった
長らく詳しい原因も分からないままに、痛み止めなどの対症療法をしているうちに、どんどん悪化していたというのが不治の病時代のリウマチでした。
しかし、実は発症後急速に進行していることなど、リウマチの診療について多くのことが分かってきました。できるだけ早期にリウマチと診断し、リウマチと分かれば速やかに悪さをしている原因に照準を合わせて倒していく、そんな治療法を私たちは手にすることができました。
早期に適切な治療を始めることができるようになったことで、「寛解」と呼ばれる状態に導くことができる例が増えてきました。
寛解というのは、関節の痛みや腫れなどの症状が消え、血液検査の項目も正常値に戻り、発症前の元の生活ができるようになった状態をいいます。画期的な薬を使って早期に治療することができるようになった今では、リウマチ患者の約半数が寛解という状態に到達することができるようになりました。この割合は治療開始が遅れた患者も含まれますから、早期に治療を開始できた患者に限っていえば、約8割が寛解になるはずです。
寛解の状態を図に表すと図表14のようになります。
関節の痛みや腫れなどの症状を取ることを臨床的寛解、関節や骨の破壊の進行を抑えることを構造的寛解、さらに生活機能(QOL)を改善して発症前の生活に戻った状態を機能的寛解といいます。
一口に寛解といっても、段階があることが分かります。図表14の矢印の順に寛解を遂げていくことになりますが、それぞれが独立したものではなく、最終的な寛解にはこれら3つの要素がどれ一つ欠けてはいけません。最近では「Boolean(ブーリン)寛解」という新たな寛解の基準が目指されるようになりました。これは圧痛(痛みのある)関節と腫脹(腫れのある)関節がいずれも1カ所以下、痛みの強さを表すVASも全体が10センチのうちの1センチ以下の状態で、最も厳しい寛解の基準です。
薬の使用を漫然と行うわけではなく、目標を達成することができればその時点で薬を減量又は中止することも可能です。
私のクリニックでは、当然どの医師も関節を診察しますし、DAS28などの内容をデータベースに入力して正確に管理しています。逆に言えば診察時に関節を触らない、またVASを評価しない治療医は専門性が低く、患者のリウマチをきちんと評価できているとはいえません。
「T2T」で目標をもった治療を行い、フィードバックを欠かさない
リウマチ治療の目標は、以前なら痛みを取ること、関節・骨破壊をできるだけ遅らせることでしたが、今では寛解を目標とできるようになりました。図表14に示した3つの寛解は、そのまま治療目標にもなっています。リウマチの実態がはっきりと認識できるようになったのですから、治療目標もしっかり定めていくことが世界的な目標となり、これを「Treat to Target(トリート・トゥ・ターゲット)」または「T2T(ティートゥティー)」と呼んでいます。
Treat to Target(T2T)とは、リウマチ治療の目標を設定し、その目標に向かって治療をするという考え方で、世界共通のガイドラインとして2010年に整備されました。画期的な治療薬が登場したことで、リウマチ治療の目標を明確に定められるようになったのです。
Treat to Target(T2T)には4つの基本的な考え方があり、さらに目標達成に向けた治療のための推奨方法10カ条が設定されています。
目標を設定し、それに向かって進んでいったあとは、その目標が実際に達成されたかを検証する必要があります。それはリウマチ治療でも同じです。
「なんとなく良くなったようだね」というあいまいな評価をするわけにはいきません。なぜなら明確な評価なしに治療を始めたりやめたりするということがあってはならないからです。
リウマチの活動性の評価法
図表17は活動性の評価を簡単に示したものです。
私のクリニックでは、患者の自宅での様子や症状を丁寧に聞き取るために図表18の問診票内のような図を使っています。
まず痛む関節を自己申告します。問診票のようなスケールが入っているので、痛みの強さや体の調子の状態を記します。10センチの目盛りになっているので、今までに最悪だったときを10、最もよいときを0としたら、今はいくつくらいだと感じられるか、その位置に印をつけます。これがVASといわれる評価です。一見、主観的で役に立たないように思えますが、答えにくい痛みの程度を数値化することで推移が分かる方法として、リウマチ治療に限らず、いろいろな病気の治療でも使われている指標になっています。
日常生活を送るために動作に制限が起きているかどうかを調べる方法としてはHAQ(ハック)というテストが行われます。それぞれの質問に対し4段階のなかから自分の状態に最も近いもの選び、トータルの点数を20で割ったスコアが0.5以下であれば機能的寛解となります。このテストは受診時に限らず、家でも時々行ってみると、そのときの症状を客観的に把握するのに役立ちます。
これらの自己申告をしたあとは医師の診察や血液検査などによって、リウマチの活動性の評価が行われます。ここは医師が複雑な計算を行うところですので、患者としては算出された数値に注目します。それによって、受診したときのリウマチの活動性が高いか低いか、あるいは寛解状態に達したかを診断することができます。
新しい治療とは画期的な薬だけでなく、治療の進め方や治療の評価、つまり治療を進めるためのサポート体制も大きく変わることを意味します。治療のパートナーは医師だけではなく、看護師やその他のスタッフにまで及び、チーム医療でリウマチ患者を支える体制が理想的だといえます。
最新医療における寛解と完治
リウマチ治療はずいぶんシステム的にもフォローされるようになりました。さまざまな角度からサポートされているおかげで効果の高い薬もより効果が高まるように使われ、今では薬を全く使わなくても寛解が維持できる状態、すなわち完治といってもよい状態に達することもできるようになりました。痛みを抑えるだけの治療から、リウマチの根本治療を行う治療に完全にシフトチェンジが行われたことでリウマチ治療にも寛解、完治といった言葉が使われるようになるとは、少し前までのリウマチ治療の世界では想像すらできなかったことです。
寛解、完治を目指すためには、新薬を治療に導入しているかとともに、こうした万全なフォローアップ体制を持っているかどうかが、ともに治療に並走してくれる病院かどうかを見極めるカギとなるはずです。
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