朝起きたら肩や腰が痛くて動けない
腕が上がらない
体全体が重だるい
50歳以上の方でこうした症状に悩んでいる場合、それは年齢のせいではなく「リウマチ性多発筋痛症」という病気かもしれません。
リウマチ性多発筋痛症(PMR:Polymyalgia Rheumatica)は、関節リウマチとは異なる疾患ですが、名前が似ているために混同されやすい病気です。
この記事では、リウマチ性多発筋痛症の症状、原因、診断基準、治療法、そして放置した場合のリスクについて、専門医監修のもとわかりやすく解説します。
リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは
リウマチ性多発筋痛症は、50歳以上の方に多く発症する炎症性疾患です。
主に肩、首、腰、太ももの付け根(股関節周囲)など、体の中心に近い大きな関節の周囲に強い痛みとこわばりが現れます。
「リウマチ」という名前が含まれていますが、関節リウマチとは別の病気です。
関節リウマチが主に手指や足指などの小さな関節を侵すのに対し、リウマチ性多発筋痛症は肩や股関節など体幹に近い大きな関節の周囲に症状が出るのが特徴です。また、関節リウマチのような関節の破壊や変形は通常起こりません。
日本での正確な患者数は明らかではありませんが、欧米では50歳以上の人口10万人あたり50〜100人程度が発症するとされています。男女比はおよそ1対2〜3で、女性にやや多い傾向があります。
70代から80代での発症も珍しくなく、高齢化に伴い今後さらに患者数が増加する可能性が指摘されています。
リウマチ性多発筋痛症の症状|どんな痛みが出るのか
リウマチ性多発筋痛症でもっとも特徴的なのは、朝起きた時の肩や腰の強い痛みとこわばりです。
「昨日まで元気だったのに、ある朝突然起き上がれなくなった」と表現される方も多く、発症が比較的急であることも特徴の一つです。

- 主な症状
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両方の肩の痛み・こわばりがもっとも頻度の高い症状です。腕を上げにくくなり、着替えや髪を洗う動作がつらくなります。シャツを着る、棚の上の物を取る、洗濯物を干すといった日常の動作に大きな支障が出ます。
首の痛み・こわばりも多くみられ、首が回りにくくなり、車の運転時に振り向く動作が痛みを伴います。腰・股関節周囲の痛みにより、ベッドから起き上がる動作や椅子から立ち上がる動作が困難になることがあります。太ももの付け根に重だるい痛みを感じる方が多いです。
全身のだるさや微熱も見られます。37度台の微熱が続いたり、強い倦怠感で日常生活が困難になったりすることがあります。体重減少や食欲低下を伴うこともあり、炎症が続くことで食欲が低下し、数週間で数キログラムの体重減少が見られることもあります。
- 「どんな痛み?」患者さんが表現する痛みの特徴
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リウマチ性多発筋痛症の痛みは、「筋肉痛のような鈍い痛みが体の広い範囲に広がる」と表現されることが多いです。「寝返りが打てないほど痛い」「布団から起き上がるのに30分以上かかる」「腕を上げようとすると激痛が走る」といった訴えが典型的です。
痛みは安静にしていると比較的楽ですが、動き始めに強く出るのが特徴で、体を動かしているうちに少しずつ和らいでいくこともあります。夜中にトイレに起きた時に体が動かず苦労したという声も多く聞かれます。こうした特徴から、五十肩や腰痛症と間違われることも少なくありません。
リウマチ性多発筋痛症の原因
リウマチ性多発筋痛症の正確な原因はまだ完全には解明されていません。
ただし、免疫システムの異常が関与していると考えられており、体内の免疫細胞が関節周囲の組織(滑液包や腱)に炎症を引き起こすことで症状が現れると推測されています。
遺伝的な要因(特定のHLA遺伝子型を持つ方がかかりやすいとの報告がある)、加齢による免疫機能の変化、感染症(インフルエンザなどのウイルス感染)がきっかけとなる可能性なども研究されています。ストレスや環境因子が引き金になることもあるとされていますが、特定の原因を一つに絞ることは現時点では困難です。
関節リウマチとの違い

名前が似ていることから混同されやすいリウマチ性多発筋痛症と関節リウマチですが、いくつかの重要な違いがあります。
| リウマチ性多発筋痛症 | 関節リウマチ | |
| 好発年齢 | 50歳以上(70〜80代も多い) | 30〜50代 |
| 主な症状部位 | 肩・腰・股関節周囲 | 手指・足指など小関節 |
| 関節の破壊・変形 | 通常起こらない | 進行すると起こる |
| リウマチ因子・抗CCP抗体 | 通常は陰性 | 陽性のことが多い |
| 治療の中心 | 少量のステロイド | 抗リウマチ薬・生物学的製剤 |
| 治療期間の目安 | 1〜3年で減薬・中止の可能性 | 長期的な継続が基本 |
| ステロイドの反応 | 少量で劇的に改善 | 単独では効果不十分 |
このように症状の出る部位、病気の経過、治療法が大きく異なるため、正しい診断を受けることが非常に重要です。
「肩が痛い」という症状一つをとっても、リウマチ性多発筋痛症なのか、関節リウマチなのか、あるいは五十肩や変形性関節症なのかで治療方針がまったく変わります。
診断基準と検査
リウマチ性多発筋痛症の診断には、2012年に発表されたACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)の暫定的分類基準が広く用いられています。主な診断のポイントは以下の通りです。
必須条件として、50歳以上であること、両方の肩に痛みがあること、血液検査で炎症反応(CRPや赤沈)が高値であることが求められます。これらに加えて、朝のこわばりの持続時間(45分以上)、股関節の痛みや可動域制限、リウマチ因子や抗CCP抗体が陰性であること、他の疾患が除外できることなどをスコア化して総合的に判断されます。
超音波検査(エコー)で肩や股関節の滑液包炎や滑膜炎が確認されることも診断の補助となります。エコー検査は痛みがなく、被ばくもないため体への負担が少ない検査です。
リウマチ性多発筋痛症に特有の血液検査マーカーは存在しないため、他の疾患(関節リウマチ、感染症、悪性腫瘍、甲状腺疾患など)を丁寧に除外していくことが診断のプロセスにおいて重要です。このため、診断には経験豊富なリウマチ膠原病の専門医の判断が欠かせません。
リウマチ性多発筋痛症の治療法
リウマチ性多発筋痛症の治療は、少量のステロイド薬(プレドニゾロン)の内服が中心です。多くの患者さんでは、プレドニゾロンを1日10〜20mg程度の少量から開始すると、数日以内に劇的に症状が改善します。
「飲み始めた翌日には肩が上がるようになった」という方も珍しくありません。このステロイドへの良好な反応そのものが、診断の裏付けにもなります。
症状が安定したら、主治医の判断のもとで数ヶ月から数年かけてゆっくりとステロイドを減量していきます。一般的には2〜4週間ごとに少しずつ量を減らしていきますが、減量のスピードは患者さんの状態に応じて調整されます。急に中止すると症状が再燃することがあるため、自己判断での減量や中止は絶対に避けてください。
長期のステロイド使用に伴う副作用(骨粗しょう症、糖尿病、感染症リスクの増加、白内障など)を防ぐため、骨粗しょう症予防薬(ビスホスホネート製剤やビタミンD)の併用や定期的な血糖値チェック、眼科検診などが行われます。
ステロイドの減量が難しい場合や再発を繰り返す場合には、メトトレキサートなどの免疫抑制薬が併用されることもあります。
放置するとどうなる?

リウマチ性多発筋痛症は適切な治療を受ければ予後の良い病気ですが、放置すると深刻な問題につながる可能性があります。
まず、日常生活への影響です。強い痛みとこわばりにより、着替え、入浴、食事の準備、外出などの基本的な動作が困難になります。特に高齢者の場合、活動量の低下が筋力の衰えや転倒リスクの増加につながり、寝たきりへの入り口になることもあります。「動けないから動かない」という悪循環に陥りやすく、全身の体力が急速に低下する危険性があります。
また、リウマチ性多発筋痛症の約15〜20%の方に巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)が合併するとされています。巨細胞性動脈炎は頭部の動脈に炎症が起こる疾患で、側頭部の頭痛、顎の痛み(食事中の咀嚼時に悪化する痛み)、視力障害などの症状が現れます。放置すると最悪の場合、失明に至ることもあるため、早期診断・早期治療が極めて重要です。
リウマチ性多発筋痛症の治療中に新たな頭痛や視力の変化(かすみ目、視野が欠ける、急に片目が見えにくくなるなど)が現れた場合は、緊急性が高いため、すぐに主治医に連絡してください。
どのくらいで治るのか
リウマチ性多発筋痛症は、関節リウマチと異なり「治癒」が期待できる病気です。多くの方は1〜3年の治療でステロイドを中止でき、日常生活に支障のない状態に戻れます。ただし、約3割の方ではステロイド減量中に再燃(症状のぶり返し)が起こることがあり、慎重な経過観察が必要です。
治療を開始してから最初の数日で痛みが大幅に改善することが多く、「朝起き上がれるようになった」「腕が上がるようになった」と実感される方がほとんどです。
ただし、症状が改善しても自己判断でステロイドを中止せず、主治医の指示に従ってゆっくりと減量していくことが再発防止の鍵です。焦らず、着実に治療を進めていきましょう。
まとめ
リウマチ性多発筋痛症は、50歳以上の方に突然発症する肩や腰の強い痛みとこわばりが特徴の炎症性疾患です。関節リウマチとは異なる病気であり、少量のステロイドが非常に効果的で、多くの場合1〜3年で治療を終えることができます。
しかし、放置すると日常生活に深刻な支障をきたすほか、巨細胞性動脈炎という視力障害のリスクがある合併症を見逃すおそれがあります。
「肩や腰が急に痛くなった」「朝起き上がれない」「微熱が続いている」こうした症状が50歳以上の方に見られた場合は、年齢のせいと決めつけず、早めにリウマチ膠原病の専門医を受診してください。
正しい診断と適切な治療で、痛みのない日常を取り戻すことができます。

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