はじめに
関節リウマチのような慢性疾患では長期間の治療が必要で、生涯に要する患者さんの医療費負担は大きくなります。
近年、関節リウマチの治療は進歩し、生物学的製剤などの「効果は高いが高価」な薬剤が使われるようになり、同時に医療費の高騰が懸念されています。これは患者さん個人の費用負担が増えることのみでなく、現在の保険制度では医療費の 7割は国民医療費を使っているので重要な社会的問題にもなっています。
私たちはこの問題を明らかにするために、これまで IORRA調査において、患者さんの医療に要する経費や労働についての質問を何回かにわたり行い、ご協力いただきました。
そこで今回は、関節リウマチの医療費について、これまでの IORRA調査で分かったことについて報告させていただきます。
関節リウマチ医療費の分類について
関節リウマチの医療費は、患者さんが関節リウマチ治療に対して支払う直接費用と、身体活動性が低下したために働けなくなることから生じる間接費用からなります。
直接費用はさらに投薬・検査・手術などのため、病院や薬局などへ支払う直接医療費(外来医療費・入院医療費・代替医療費)と、本人や家族が支払う医療以外の費用、すなわち交通費・装具・介護費用などの直接非医療費に分けられます。
関節リウマチにおける直接費用(患者さんの個人負担分)
関節リウマチ患者さん 1人の 1年間あたりの直接医療費(自己負担費用)は26万 4千円でした。
これらの費用は、関節リウマチの罹病期間が長いほど、疾患活動性(病気の勢いの強さ)を示す DAS28や、身体機能障害(日常生活の不自由さ)を示す J-HAQという指標、さらには生活の質(Quality of life[QOL] :日常生活がどれほど充実しているかということ)を示す EQ-5Dという指標が悪化すればするほど、関節リウマチ患者さんの負担が増大していることが分かりました(図1)。
また、直接医療費だけでなく、交通費・装具・介護費用などの直接非医療費も DAS28やJ-HAQ、EQ-5Dの悪化とともに高額になるという結果も得られています。
さらに、通院中の関節リウマチ患者さんのうち 1/3の患者さんが何らかの代替医療を利用されていること、生物学的製剤を使用しておられる患者さんは、使用していない患者さんと比較して、1年間あたりの直接医療費が約3倍であることも明らかとなりました(図1)。

関節リウマチ患者さんの就労状況
関節リウマチ発症後も発症する以前と同様に仕事ができている患者さんは1,666名(32.0%)でした。一方、関節リウマチのために勤務時間を減らしたり、転職したり、仕事を辞めた患者さんは 869名(16.7%)でした。(表)
このことは、勤務者のうち 1/3の患者さんが、関節リウマチのために何らかの就労制限を経験していることを意味しています。
また、関節リウマチは女性に多い病気ですので、家事や手伝いをされている方が 2,097名(40.3%)でしたが、このうち、関節リウマチのために家事を減らしたり、休んだりした患者さんは約 40%でした。
そして間接費用に換算すると、関節リウマチ患者さん 1人の 1年間あたりの間接費用は 76万円にも相当することがわかりました。勤務者の就労制限や家事の制限は、DAS28(病気の強さ)や J-HAQ(機能障害の程度)、EQ-5D(生活の質の程度)の増悪とともに悪化することも明らかとなりました。

関節リウマチ患者さんの医療費負担(社会の負担分)
関節リウマチ患者さんの 1年間の1人当たりにかかる費用は平均 244万円でした(直接費用が 168万円・間接費用が 76万円)。
これらの費用は生活の質を表す EQ-5Dが悪化すればするほど高額となりました。このことは関節リウマチを発症早期からきちんとコントロールし続けることができれば、身体機能障害も進まず、生活の質も保たれ、結果的に生涯の医療費が軽減できる可能性を示しています。(図2)


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