新たな関節リウマチ治療法として注目されるメトジェクト「SC-MTX(サブカットメトトレキセート)」の導入により、従来のリウマトレックス「経口メトトレキセート(PO-MTX)」治療からの移行が実臨床での安全性と有効性を確かめる試みが行われました。
スウェーデンで2002年に承認され、現在50カ国以上で使用されているメトジェクトは、2022年12月より日本でも使用可能となりました。国内の第Ⅲ相臨床試験では、メトジェクトとリウマトレックスの間に有意な効果の差は認められませんでしたが、口内炎、消化器症状、肝機能障害などの副作用がリウマトレックスよりも低いことが明らかにされました。
この研究では、リウマトレックス治療に難渋していた患者10名を対象に、メトジェクトへの変更後の12週間にわたる効果と副作用を評価しました。
その結果、メトジェクトによる治療は、胃腸障害や口内炎の減少に寄与し、疾患活動性の改善傾向を示しました。
これにより、消化器症状でリウマトレックスの増量や継続が困難な関節リウマチ患者に対して、メトジェクトへの変更が有効な選択肢であることが示唆されました。
背景
2002年にスウェーデンで関節リウマチ(RA)に対して承認されたメトジェクト(SC-MTX)は、現在までに欧州を中心とした50の国又は地域で承認されており、本邦では2022年12月から投与が可能となった。
国内第Ⅲ相臨床試験のACR20%改善率は、メトジェクトはリウマトレックスと有意差は認められなかったが、口内炎や消化器症状、肝機能障害などの副作用の頻度がリウマトレックスよりも低いことが報告された。
このことは、これまで上記の副作用でリウマトレックスの増量、継続が困難である患者に対し、メトジェクトに変更することでMTX治療が安全に継続できることが期待された。
目的
実臨床においてリウマトレックスからメトジェクトへ変更を行った患者の安全性と有効性を明らかにする。
方法
当施設でリウマトレックスを服用しているRA患者にたいし、主治医がメトジェクトへの変更が必要と判断し、アンケート調査に同意した10名の患者を対象とした。
これら患者に対しメトジェクトへ変更し、12週間にわたり口内炎の発生数、胃腸障害の程度、注射時の痛みの程度、MTX治療日のアドヒアランスならびにDAS28の推移を調査した。
リウマトレックス⇨メトジェクト変換用量
リウマトレックス(mg) | メトジェクト(mg) |
---|---|
6 | 7.5 |
8 | 7.5 |
10 | 10 |
12 | 10 |
14 | 12.5 |
16 | 15 |
調査票
導入時 | 投与開始時 | 投与開始時 | 4w | 8w | 12w | |
ID | ||||||
年齢 | ||||||
性別 | ||||||
罹病期間(月) | ||||||
MTX内服期間(月) | ||||||
MTX内服量(mg/週) | ||||||
メトジェクト用量(mg/週) | ||||||
csDMARDs(mg /日) | ||||||
Bio | ||||||
JAK | ||||||
PSL(mg/日) | ||||||
DAS28CRP | ||||||
患者様聞取り事項 | ||||||
口内炎の個数(個/月) | ||||||
胃腸障害の程度(VAS) | ||||||
注射時痛の程度(VAS) | ||||||
投与逸脱回数(回/月) |
患者背景
Age | Sex | Duration(M) | PO-MTX period(M) | PO-MTX(mg/W) | SC-MTX(mg /W) | DMARDs(mg /D) | Bio/JAK | PSL (mg/D) | DAS28 (CRP) |
71 | F | 10 | 10 | 8 | 7.5 | IGU | ー | 0 | 3.2 |
37 | F | 14 | 9 | 10 | 10 | ー | ー | 0 | 1.5 |
36 | F | 24 | 24 | 10 | 10 | ー | ー | 0 | 3.2 |
35 | F | 96 | 56 | 12 | 7.5 | TAC | ABT125 | 2.5 | 2.8 |
69 | M | 72 | 36 | 12 | 10 | IGU | ー | 0 | 3.8 |
62 | M | 36 | 36 | 14 | 12.5 | ー | ー | 0 | 3.4 |
52 | F | 22 | 22 | 6 | 7.5 | SASP | ー | 2.5 | 2.5 |
55 | F | 147 | 144 | 6 | 7.5 | BUCI | ETN50 | 0 | 2.3 |
44 | F | 53 | 53 | 10 | 10 | TAC/SASP | 3.5 | 3.6 | |
26 | F | 13 | 5 | 6 | 7.5 | ー | ー | 5 | 3.4 |
結果
口内炎(個数/月)
胃腸障害(VAS)
DAS28CRP
MTX推移
PSL推移
治療逸脱回数
考察・まとめ
メトジェクトの変更理由は、9例は消化器症状、1例は効果不十分であった。
メトジェクトの平均用量は、導入時9.0mg/W⇨12週目10.0mg /Wへ変化した。
Eric Senbel, et al, Patient Prefer Adherence. 2021 Apr 14,15,751-760
baseline | 12w | |
DAS28 | 2.97 | 2.38 |
口内炎数 | 0.4 | 0.0 |
胃腸障害 | 60.9 | 1.1 |
PSL | 2.7 | 0 |
口内炎/胃腸障害の増悪はメトジェクトの増量のタイミングに一致していた。
肝機能障害の悪化で1例中止となったが、9例は継続していた。
メトジェクトの逸脱は新型コロナワクチン接種・感染症罹患のための休薬であった。
Yajima et al. BMC Rheumatology (2022) 6.75
結語
リウマトレックスからメトジェクトへの治療変更は、胃腸障害および口内炎を減少させることができた。
メトジェクトの治療変更により、疾患活動性の改善傾向を認めた。
消化器症状によりリウマトレックス増量、治療継続の困難なRA患者に対してメトジェクトへの変更が有効であることが示唆された。